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ロジ書評 Vol.2 『ちいさな手のひら事典 魔女』

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ゆりり
ゆりり
ロジ書評 Vol.2 『ちいさな手のひら事典 魔女』

幼い頃は魔女に憧れていて、どうにかして魔法を手に入れようとしたものです。

当時の私が思いつく限りだと、どうにかしてくれそうな対象はサンタクロースしかいません。確認できる超常現象の類はサンタさんくらいだったので……。
そんなわけで、幼い私はサンタさんに魔法をねだりました。
それを聞いた母は「サンタさんは物理的なものしかあげられないと思うよ」と私を説得し、結局別のプレゼントに妥協したのです。

あの時からずいぶん時は経ちました。いまだに魔女をテーマにした物語やモチーフは同じ高度で流行り続けているし、私も魔女に憧れ続けています。

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ページ断面(小口と天)が金で、ゴージャス

グリモワールのような装丁に惹かれて購入。世界各国の魔女における歴史や情報が載っていて、魔女の基礎が学べる本です。

依然、魔女への憧れはまだあります。魔女になるための計画を発表すると……

  1. 年老いたら、田舎町に引っ越す。 庭付きの、小さい平屋に住む。隣家との間隔は広いほど望ましい。
  2. とにかく、黒い服を着る。安価で合理的な中年女性らしい服は、徹底的に排除する。魔女は、イオンの婦人服売り場で服を買わないので。 金ぴかの、ごつごつとした指輪をはめる。宝石や天然石のひとつひとつの意味を、説明できるようにしておく。
  3. やがて、親の帰省などの理由でこの町に連れられた子どもたちから、「あの人って魔女じゃない?」と噂されるようになる。 子どもが知る由のない魔女らしい知識を披露する。女子にはおまじないを教える。

すると、もう立派な魔女ですよね。

子どもたちが私の家を訪問した際、ガッカリさせないようにそれっぽい知識を手に入れられるのがこの本なわけです。
なんだか、オズの魔法使いみたいです。ただのペテン師なのに、「偉大なる魔術師」と持てはやされるような。いずれ自炊するだけで、錬金術だと思われるでしょう。

尊敬される一方で、恐れられた魔術

 p9 - 魔術の歴史

そういえば先月、『オズの魔法使い』の後日譚とした描かれた映画『ウィキッド ふたりの魔女』を鑑賞しました。
アメリカでは社会現象になっているほど話題沸騰中だそうですが(アメリカでの『オズの魔法使い』の知名度は、日本で言う『桃太郎』と同じほどだそうです)、それが頷けるほど良いミュージカル映画でした。

私はもともと『オズの魔法使い』が好きで、"元々持っていたものを探しに行く旅"と個人的に解釈しています。
旅の同行者たちは、自分に足りないものを貰えるよう、オズの魔法使いに頼みに行きます。カカシは脳みそ、ブリキの木こりはハート、弱虫のライオンは勇気、といったように。
でも、彼らは旅の道中でそれらを発揮します。賢い脳みそも、思いやりのあるハートも、立ち向かう勇気も全て、"元々持っている"けれどそれに気づかない。オズの魔法使いは、彼らにそれを気づかせる「きっかけ」でしかありません。

一方で『ウィキッド』は、"元々持っているものに足を引っ張られ続ける(だからこそ、自分を信じる)話"だと思うんです。あの映画はわかりやすく、差別の問題提起をしていると思っていて——。ぼちぼち、『ウィキッド』を語るのはこの辺にしておきますね。

たび重なる戦争のため、中世ヨーロッパは荒廃。さらに、ペストなどの疫病や、自然災害と人手不足による飢饉が加わり、人びとの生活は困窮を極めました。そんななか、災いには悪魔が加担していると思うことで、みな安心を得ようとします。魔女をその共犯者に仕立てることは、じつに都合がよかったのです。

p12 - 魔術の歴史

この本を読むと、魔女や魔術師が尊敬される一方で、畏怖の対象であったことが分かります。説明できないものに対する憧れと怖さは表裏一体です。
私の魔女への憧れも、一見ポジティブなように見えますが、無知による無意識の差別はこのこと以外でも心当たりがあります。

サンタさんは、私が持っていない"魔法"を与えてくれる、幼い私にとってのオズの魔法使いでした。
よくわからないけれど「サンタさんってすごいことができそう」という一面的な視点で期待した私に対する母のあの発言は、色んな意味でなかなかファインプレーだったな、と思います。

私は、自身の力で「自らが魔女であること」にきっと気づけると思います。この本のおかげで、魔女になるためのロードマップはなんとなく設定できたので。

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《書籍情報》
『魔女(小さな手のひら事典)』
ドミニク・フゥフェル 著, いぶき けい 訳
出版社:グラフィック社 (2020/8/11)
ISBN ‏ : ‎ 978-4-7661-3432-2

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